「気の宗教」道教こそ、中国を理解するための鍵である
坂出祥伸著 中央公論新社刊 中公叢書 1,800円 2005年 初版発行
「発生当時の道教、すなわち太平道や五斗米道などは、呪術治療によって多くの信仰者を獲得しながら教勢を拡大したのであり、けっして当初から教理や教典があって信仰が確立したわけではない。道教の教理教典は、当時浸透しつつあった仏教への対抗上、仏教の教理や教典を模倣して作成されたのであり、儀礼も同様に仏教を模倣したのである。天帝に代わって老子が救済の神格として登場するのも、一種の権威づけだと思われる。仏寺に相当する宮廟や道観もまた仏教の模倣であろう。」(7p)と冒頭で道教についての概論を坂出氏は述べています。
後漢末期の混乱期に反権力的宗教組織である道教は、老子を神としているものの、老荘思想とはまったく別次元のものです。本書ではその基本が明確に説かれています。
また第七章では「道教と医薬」と題して黄帝内経の身体観および内景図にまで触れられています。「たしかに、西洋医学は身体の故障しか考えていない。しかし漢方医学では身体の全体を、さらに心をも診るのである。漢方医学は、正しくは黄帝内経医学と呼ぶ。それは鍼灸医学である。鍼灸では五臓のバランスが重視される。黄帝内経医学=鍼灸医学のめざすのは、養生つまり予防医学である。」(185p)と明らかにされています。
このほかにも本書は、道教ができる以前、支那大陸にあった咒術や仙道および医薬について触れ、さらに歴代の道教の特徴、内丹外丹、全真教の問題。および古代日本との交流。現代の道教状況について網羅的に述べています。これまでこれほどまとまった道教書はなかったのではないでしょうか。
小さな書物ではありますが非常に盛りだくさん。教科書的な明瞭な視点を提供してくれるものであると推薦いたします。
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