fc2ブログ

一元流鍼灸術

一元流鍼灸術の解説◇東洋医学の蘊奥など◇HP:http://www.1gen.jp/

そのような脉診を少なくとも治療前と治療後にやり続けてきて徐々に理解してきたことは、実はそれよりも大きな脉の診方があるということでした。それは脉を見ることを通じて、「生命力の変化を見ている」のだということです。脉診を通じてみる生命力の変化は一瞬にして大々的に変わることもありますし、微妙な変化しかしないこともあります。それは患者さんの体質や体調により、また、治療の適否によります。細かく見ているだけでは表現しようのない大きな生命力の動きが、ダイナミックな変化として脉に現れることがあります。このことをおそらく古人も気がついていて、これを胃の気の脉と呼んだのだろうと思います。

胃の気の大きな変化こそ、脉診において中心として把握すべきものです。これは生命力の大きなうねりなのですから。

この胃の気の変化は、生命力全体という大きな視点から診た変化です。ですから、何という名前の脉状が胃の気が通っている脉状であると表現することはできません。より良い変化が起こっているか、より悪い変化が起こっているか、しか実はないわけです。

良い脉状にはしかし目標はあります。それは、いわゆる12歳頃の健康な少年の脉状です。楊柳のようにしなやかで、拘わり滞留することがなく、輪郭が明瞭でつややかな脉状。寸関尺の浮位においても沈位においても脉力の差がなく、ざらつきもなく華美でもないしなやかで柔らかな生命の脉状。これが胃の気のもっとも充実している脉の状態です。

胃の気が少し弱るとさまざまな表情がまた出てきます。千変万化するわけです。脉位による差も出てくるでしょうし、脉圧による差も出てくるでしょう。脉状にもさまざまな違いが出てきて統一感がなくなります。輪郭も甘くなったり堅く弦を帯びたり反対に何とも言えない粘ったような柔らかい脉状を呈するようになるかもしれません。

このことが何を意味しているのかということを、歴代の脉書は伝えていますけれども、そこに大きな意味はありません。ましてそれぞれの脉状に対して症状や証をあてるなど意味のないことです。そんなことよりもよりよい脉状に持って行くにはどうすればよいのか、という観点から治療方針を定めていくことの方が、はるかに重要です。

このようにして、陰陽五行によるカテゴリー分けにすぎなかった脉状診から、生命そのものを見る胃の気の脉診法が生まれました。そしてこの胃の気の脉を見るということへの気づきが、それまでの陰陽五行論を大きく発展させました。それが、気一元の場を、陰陽という観点 五行という観点から眺める、という一元流鍼灸術独自の陰陽五行論となっていきました。


書物を読んで勉強していると生命力が「ある位置」で固まっているような感じがします。そのため、ある脉状を掴まえてその名前を決め、それに関連する症状と治し方を決めていこうとしたりするわけです。これはまるで、滔々と流れる川の流れの中の小さな渦に名前をつけて、その渦の位置と深さと強さとによって川の流れを調整する鍼の立て方を決めようとしているようなものです。よく考えてみてください。これはあまりにも現実離れしているとは思いませんか?

生きて動いている生命を眺めるということ―すなわち胃の気を眺めるということは、カテゴリー分けするための道具の位置にすぎなかった陰陽五行論の使い方を一段高い位置に脱せしめ、生命の動きを見るための道具へと深化させていくためのキーとなる概念です。

そのためこれを「気一元の観点から観る」と表現して、一元流鍼灸術では大切にしています。
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://1gen.blog101.fc2.com/tb.php/230-01cab854

この人とブロともになる