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一元流鍼灸術

一元流鍼灸術の解説◇東洋医学の蘊奥など◇HP:http://www.1gen.jp/

■『蜘蛛の糸』その後:伴 尚志説


「芥川龍之介の著した『蜘蛛の糸』をご存知の方はたくさんおられると思いま
す。そしてそこから教訓を引き出そうとする、倫理的な方々もたくさんおられる
ようです。私も私の直感を通じて『蜘蛛の糸』その後談の屋上屋を重ねようと思
います。楽しんでいただけると嬉しいです。」


カンダタが蜘蛛の糸をお釈迦様に切られて落ちていった、その底は地獄だった。

けれどその同じ風景がお釈迦様にとっては、光と影が織りなす、色鮮やかな生命
曼陀羅であった。

カンダタはお釈迦様に蜘蛛の糸を切られて奈落の底に落ちていく中で、一瞬のう
ちに深い歓喜に包まれた。「あぁ、俺はもう救われる必要なんてないんだ!」い
つも何かにとりつかれたように突き動かされて行動していたカンダタ。大犯罪者
であるカンダタは、そのままの姿で―何ということだろうか!―救われてしまった
のであった。なんと表現することもできないような歓喜!が、カンダタをとらえ
て放さなかった。

「救われるというのはこういうことだったのか!」カンダタは地獄の底に落ちて
いく長く暗いいトンネルを通り抜けるような、無力な旅の中ではっきりと気付い
た。

「なんという喜びだろう!」救われる必要などなく、求める必要などなく、ただ
ありのままの愚かな自分を受け入れたカンダタにとって、もう恐いものなどなく
なっていた。

「救いや悟りなんてどうでもいい!俺こそがありてあるものそのものだったんじ
ゃないか!」カンダタは気づいた。自分が生命そのものであったということに。
生命の本体こそが自分自身であったということに。
自分自身以外に誰もこの生命の本体を知るものはいないということに。
まるで雷に打たれたようだった。家のドアを開けたらそこにダンプカーが突っ込
んできたような驚きだった。

「道徳なんてものはない、不道徳なんてこともない。あるのは在るという事実だ
けだったんだ」「ありてあるもの。存在の王。それが俺だ。」カンダタは地獄に
堕ちていきながら火の玉のようになっていく自分自身を感じ、そう思った。

「俺が傷つけたのは俺自身だった。俺が殺したのは俺自身だった。俺が焼いた家
は俺自身の家だった。俺が渇望したのは俺自身だったんだ!」カンダタはすべて
を悟った。

「地獄は俺自身の心だったんだ!なんてことだ!俺自身が地獄を作っていたん
だ!そしてそこに住んで俺は傷つき飢え殺し盗んできた。俺自身から!人を妬ん
で!」カンダタはいつの間にか号泣していた。自分の愚かさにあきれかえった。
そして以前の自分が憐れに思えた。

「なんてちっぽけな世界に住んでいたんだろう。心の汚れを洗う方法も知らず
に・・・」光の玉となってカンダタは地獄の底に落ちていった。

ふと気がつくと、カンダタは地獄の底で目が覚めた。いや、そこは地獄の底のは
ずだったというべきか。広い野原の丘の上でカンダタは目が覚めたのだ。たしか
にあの奈落に落ちていく感覚はもうすでになく、たしかな地面が広がっている。
雨上がりの後のような草の香りが世界を満たしている。すばらしい太陽が白い雲
の漂う空に輝いている。ここは地獄の底のはず、だった。

「なんて美しい世界なんだろう」カンダタは胸一杯に空気を吸い込んで思わず叫
んだ。するとまるでハイジのような少女が暖かいミルクをもってやってきた。彼
女は怖れを知らぬ愛らしい眼差しをカンダタにまっすぐ向けた。

「大丈夫?大きな音がしたからお星様が落ちてきたのかと思っちゃった!」そし
てさらにカンダタの眼をのぞき込んで言った。「どうぞ」

手に持っていたミルクを差し出した。カンダタはその優しさに震えて泣いた。
それは大盗族カンダタの「今の姿」だったのだ。

少女の姿でカンダタは、今日もお釈迦様が蜘蛛の糸を切られる慈悲の裁断を待ち
続けているという。

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                 伴 尚志


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